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研究における調査の進め方
アンケート?聞き取り?・・調査方法の選択と注意点

 卒業論文やケースの作成、プロジェクトの実行などにあたり、しばしば実態を調査することが必要になる。しかし、間違った方法で調査しても知りたいことを知ることができなかったり、効率の悪いものになってしまったりする。手間暇をかけ、アンケート用紙などの資源を使い、調査協力者の労力と時間を奪って調査を行うからには、調査実施者には無駄なく最大限の情報を得られるよう最善を尽くす義務がある。ぼんやりした目的と方法で行われる調査では、ぼんやりした結果しか得られない。そこで、調査方法について概要を説明する。

  1. 調査目的の特定
     まず、何を調査するのかを明確化することが最も重要である。ここがハッキリしないと、何を調べればいいのか、どの調査方法を選べばいいのか、誰にどのように質問すればよいかなども決まらない。何を調べていいかわからない、特定できないという場合は、調査するべきではない。それは、調査できる段階に達していないこと、つまり、調査について考え尽くされていないこと、必要な準備がなされていないこと、何を調査すればいいか理解できていないことを意味するからである。

  2. 文献・資料の収集と理解
     調査に向けた準備の最も基本的なものは、文献や資料などを調べるということである。書籍、雑誌、ネットなどを参照し、関連情報をできるだけ集めて理解しておくことが重要である。これは、「わざわざ調査しなくてもわかること」を知っておくためであり、無駄な調査をしないための基本的な作業である。これによって、調査したい内容をさらに明確化する。なお、出版物は、大学図書館のホームページで検索したり、雑誌記事等の情報は、学内からのみアクセス可能な日経BP記事検索などを利用すると便利である。

  3. 調査方法の選択
     調査方法としては、構造化された調査と、構造化されていない調査がある。構造化されているとは、回答者の回答方法が、「YES-NO」「0-5回、6回-10回、11回以上」といった形で回答できるようなもの、構造化されていないとは、回答者が自由に答えられるものである。構造化されたものは、回答を集計できるため調査結果を数値化して統計的に評価することができるが、調査したい事柄が絞り込まれていないと構造化することはできない。
     通常、構造化された調査には、質問調査票を用いたアンケートが向いており、構造化されていない調査には、ヒアリング調やインタビュー調査が向いている。構造化された質問をヒアリングないしインタビューで尋ねることは可能だが時間がかかる。一方、構造化されていない自由回答の質問をアンケートで回答させる方法は問題があるので避けるべき。この点は、後のアンケート調査の項で説明する。

  4. 調査方法1:ヒアリング調査・インタビュー調査
     対面や電話、電子メール等で、質問を投げかけ回答してもらう聞き取り形式の調査方法である。ここでは、ヒアリング調査は少し曖昧さの残る調査内容について探索的に確認していく聞き取り調査、インタビュー調査はかなり明確な調査内容について深掘りしていく聞き取り調査のことを意味している。
     こうした聞き取り調査の利点は、回答に対して、「それはなぜ?」「どのように?」「何を?」・・と深掘りして質問することができることである。もし調査後に、聞き逃したことがあっても(本来は避けるべきだが)もう一度電話やメールで尋ねることもできないわけではない。したがって、調査の早い段階、知りたい事柄に曖昧さが残っている段階で実施することもできる調査方法である。つまり、構造化されていない問題を調査する際に有効である。
     もちろん、聞き取り調査では、Yes Noで答えられるような構造化された質問を行うことも可能である。ただ、時間と労力がかかるため、そのような質問がメインであれば、質問調査票を用いたアンケートを採用する。
     詳しくは、インタビュー調査・ヒアリング調査の進め方を参照のこと。

  5. 調査方法2:アンケート調査
     アンケート用紙やウェブアンケートなど質問調査票を利用して行う調査である。大量の回答を集め、全体の傾向や割合を明らかにしたいときに有効な調査である。もちろん、回答を集計し、統計的に分析するためには、調査内容が絞り込まれ、「YES-NO」「0-5回、6回-10回、11回以上」「全くそう思わない、半ばそう思う、強くそう思う」「会社員 公務員 学生 その他」といった形で回答できるよう質問が構造化されていることが必要である。なお、傾向を、ある程度正しくつかむにはできれば(推定したい全体数にもよるが)少なくとも100件以上の有効回答が欲しい。
     よって、特殊な人や会社や事柄についての調査に、アンケートは適当ではない。例えば、「本学における北欧出身の留学生の就職状況」など2〜3例しかない状況である。この場合は、インタビューして「それはなぜ?」「どのように?」「何を?」と深掘りした方が、より良い調査が行える。
     また、構造化されていない質問も、アンケートにはふさわしくない。アンケートでも、自由回答形式の質問を設定することは可能だが、意味のある結果は得られにくい。例えば、以下のように自由回答方式で質問すると、無回答や「特にない」がほとんどとなる。



     作ろうと思うアンケートの主要な部分が自由回答質問で構成されるとすれば、それは問題が明確化していないのかもしれない。問題が構造化されていないなら、やはりヒアリングやインタビューを行うべきである。あるいは、問題が構造化されているなら、次のように質問すると、無回答や「特にない」となることは大幅に減る。



     ただ、このような複数選択の場合、適当に2つぐらい選択されることがあるし、選択基準も明確でなく、選択された項目がすべて同じ程度不満かどうかがわからない。そこで、次のようにすると、さらに厳密な調査が可能となる。



     もちろん、最後のような設問(マトリックス設問)にすると選択肢が増え、回答者の負担も増えてしまう。負担が大きいと回答を拒否されたり、テキトーな回答となったりする可能性が高まる。質問の重要性と回答者の負担のバランスに配慮する。
     また、アンケートの選択項目は、漏れなく、重複なく設定することが重要である。例えば、以下のような質問を見て欲しい。この質問では「遅れたことはあるができなかったことはない」場合、どう判断したら良いかわからない。選択肢も、0回の場合がない上に(漏れ)、5回や10回の場合どちらを選択して良いかわからない(重複)、何に回答して良いかわからない人がデタラメに選択する恐れがある(わからない、という選択肢の漏れ)という問題がある。



     アンケートは以上のようなことを考えて作成する必要がある。なお、参考までに、先輩が作ったアンケートのサンプルを示しておく(→サンプル1サンプル2)

 

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